変化の時代を生き抜く、士業の柔軟性

これからの時代の士業に求められる"柔軟性"という武器
私は、士業というものが持つ本質的な価値を、とても尊いものだと考えています。税理士、社労士、行政書士、司法書士――専門資格を持ち、法律や制度という難解な領域を扱いながら、人々の困りごとを解決する。それはまさに、日本社会にとって欠かせない羅針盤のような存在です。


けれども同時に、私はこうも思うのです。士業の世界は今、かつてないほど大きな岐路に立っている、と。


なぜなら、時代が猛烈なスピードで変化しているからです。制度も、テクノロジーも、働き方も、顧客の期待も、そのすべてが流動的です。そして、その流れに追いつけない士業は、どれほど優秀でも、どれほど誠実でも、やがて顧客から選ばれなくなっていくでしょう。


だからこそ私は、これからの士業にとって最も重要な武器は「柔軟性」だと確信しています。


硬直した士業は、時代に取り残される
士業の世界には、長い歴史があります。それは誇るべきものですし、培われてきた専門性や信頼は、何にも代えがたい財産です。


しかし、その歴史が時に「重荷」になることもあります。


「この業務はこうやるもの」「士業とはこうあるべき」――そんな固定観念に縛られて、変化を拒んでしまう。制度が変わっても、テクノロジーが進化しても、顧客のニーズが多様化しても、「昔からのやり方」を変えようとしない。そうした硬直した姿勢が、士業を衰退させていくのです。


たとえば、いまだに手書きの申請書にこだわり、紙と印鑑を前提とした業務フローを変えようとしない。あるいは、メールすらまともに使えず、連絡が何日も遅れる。


そういう人たちは、悪意があるわけではなく、むしろ、真面目に誠実に仕事をしているつもりなのでしょう。でも、それでは顧客に選ばれません。なぜなら、時代に合っていないからです。


私は、経営者として常にこう考えています。「継続性こそが、社会や顧客に対する責任である」と。そして、継続するためには、変化に対応しなければならない。硬直は、停滞を生み、やがて淘汰されるのです。


柔軟性とは、"原理原則を守りながら形を変える力"である
では、柔軟性とは何か。それは、単に「何でも受け入れる」「ブレる」ということではありません。


私が考える柔軟性とは、原理原則――つまり理念や専門性、倫理観といった"核"は決して揺るがせずに、それを実現するための"手段"や"形"を、時代や顧客に合わせて変えていく力だと定義しています。


たとえば、行政書士としての「正確な書類を作成し、適法に手続きをサポートする」という使命は変わりません。けれども、その実現方法は変わっていいのです。紙の申請書作成から電子申請への移行。対面での書類受け渡しからクラウドストレージでのやり取りへ。定型的な契約書チェックや記入例作成の一部は生成AIに任せて、その分だけ顧客とのヒアリングや相談対応の時間を増やす。


形を変えることは、本質を捨てることではありません。むしろ、本質を守り抜くために、形を変えるのです。


私はこのことを、自分の事業運営の中で実感してきました。新しいツールを導入するとき、最初は抵抗感があります。慣れたやり方を変えるのは面倒だし、失敗するリスクもある。けれども、「顧客のためになるか」「事業の継続性を高めるか」という判断基準で動けば、答えは明確です。


柔軟性とは、逃げではありません。責任を果たすための、積極的な選択なのです。


生成AI×士業が象徴する、これからの柔軟性
私が特に注目しているのは、生成AIと士業の掛け合わせです。これは、まさに柔軟性を体現する領域だと考えています。


たとえば行政書士の業務で考えてみます。遺言書や離婚協議書、各種契約書のドラフト作成、申請書類のフォーマット整理、過去事例のリサーチ、顧客へ送る説明文書の下書き――こうした「時間がかかるが、専門性がそれほど問われない業務」は、生成AIが劇的に効率化してくれます。


つまり、行政書士が本来やるべき「顧客の状況を丁寧にヒアリングする」「最適な手続きを判断する」「行政機関との調整を行う」「顧客の不安に寄り添う」といった、人間にしかできない仕事に集中する時間を生み出してくれるのです。


ところが、こうしたツールに対して「AIに仕事を奪われる」と怯える士業も少なくありません。あるいは、「自分の専門性が軽く見られる」と警戒する人もいます。


私に言わせれば、それは完全に見当違いです。


AIは、行政書士の仕事を"代替"するのではなく、"拡張"するのです。行政書士の価値は、書類を作ること自体ではなく、「顧客の状況に合わせた最適な手続きを提案し、実行すること」にあります。そして、その判断の精度やスピードを高めるために、AIという道具を使いこなすことができれば、行政書士の価値はむしろ何倍にも高まるのです。


私は、こうした変化を楽しんでいます。新しいツールを試し、使いこなし、業務に組み込んでいく。その過程で、自分たちの働き方がどんどんアップデートされていくのを感じると、純粋にワクワクします。そして、その成果が顧客の満足につながり、事業の継続性を強固にしていく。これ以上に健全なサイクルがあるでしょうか。


柔軟性は、顧客との信頼関係を深める
柔軟性が大切なもう一つの理由、それは「顧客との信頼関係を深める」ことにあります。


顧客は、一人ひとり違います。起業したばかりの個人事業主もいれば、事業承継を考えている中小企業の経営者もいる。外国人ビザで困っている技能実習生もいれば、相続手続きで悩んでいる高齢者もいる。事業規模も、業種も、悩みも、働き方も、価値観も、すべてが異なります。


にもかかわらず、行政書士が「うちはこのやり方しかできません」と押し付けてしまったら、それは顧客にとって不便であり、ストレスです。


私は常々、「顧客の羅針盤となる」ことを大切にしています。それは、顧客が迷ったときに道を示すだけでなく、顧客が歩きやすいように、こちらが柔軟に対応するということでもあります。


たとえば、顧客が「平日は仕事があって事務所に行けない」と言えば、土日や夜間に対応する。「遠方に住んでいて対面が難しい」と言えば、オンラインで相談や書類の受け渡しを完結させる。「この許可申請、どういう書類が必要かよくわからない」と言えば、専門用語を使わずに噛み砕いて、図や事例を使って説明する。


こうした柔軟な対応の一つひとつが、顧客との信頼を積み上げていくのです。そして、その信頼こそが、長期的な関係を生み、事業の継続性につながります。


逆に、硬直した対応をする行政書士は、どれほど専門性が高くても、顧客から「使いにくい」「話が通じない」と敬遠されてしまいます。それは、とてももったいないことです。


柔軟性を支えるのは、明確な判断基準
ただし、柔軟性を発揮するには、土台が必要です。それは、「明確な判断基準」です。


私が経営において最も重視しているのは、判断です。何かを決める。それによって物事が前に進む。そして、その判断の拠り所となるのが、理念であり、価値観です。


「顧客のためになるか」「社会に貢献できるか」「事業の継続性を高めるか」――こうした基準があるからこそ、柔軟に動くことができるのです。基準がなければ、ただブレるだけになってしまいます。


柔軟性とは、迎合ではありません。自分の軸を持ちながら、その軸に沿った最適な形を選び続けることです。


たとえば、行政書士として顧客から「ちょっとグレーな方法で申請してほしい」と頼まれたとします。そのとき、柔軟性があるからといって、それを受け入れるわけではありません。なぜなら、「適法に手続きをサポートする」という原理原則に反するからです。そこでは、柔軟性ではなく、明確な判断基準に基づいた「断る勇気」が求められます。


一方で、「こういう形式の書類じゃないと受け付けません」という行政機関の対応に対して、顧客が困っているなら、その書類を別の角度から作り直す、補足資料を添付する、事前相談で道筋をつけるなど、柔軟に対応策を考えます。


私がスピード感を持って判断し、すぐに実行に移すことができるのも、この判断基準が明確だからです。迷う時間が減り、試す回数が増え、結果として成長のスピードが加速します。


変化を恐れるのではなく、楽しむ
最後に、私が最も伝えたいのは、「変化を楽しむ」ということです。


時代が変わること、テクノロジーが進化すること、顧客の期待が高まること。これらはすべて、「新しいチャンスが生まれている」という証です。


私は、変化が起きるたびに「さあ、次はどう動こうか」とワクワクします。それは、変化に対応することで、自分たちがもっと良いサービスを提供できるようになると知っているからです。


行政書士の世界にも、こうしたマインドが広がってほしいと、心から思います。


電子申請が普及すれば、遠方の顧客ともスムーズに取引ができるようになります。クラウドサービスを使えば、書類管理が効率化され、ミスも減ります。生成AIを活用すれば、単純作業から解放され、もっと深い相談対応ができるようになります。オンライン相談を導入すれば、子育て中の方や介護をしている方など、事務所に来られない人たちにもリーチできます。


こうした変化は、すべて「顧客のためになる」ものです。そして、顧客のためになることは、結果的に事業の継続性を高め、社会への貢献につながります。


柔軟であることは、弱さではありません。強さです。時代に合わせて形を変えながら、本質を守り抜く。それができる行政書士こそが、これからの時代に選ばれ、信頼され、そして社会に貢献し続けることができるのです。


まとめ:柔軟性は、士業の未来を拓く鍵である
これからの士業、特に行政書士に必要なのは、資格でも知識でもなく、「柔軟性」です。


時代が変わる中で、原理原則を守りながら形を変え続ける力。顧客一人ひとりに合わせて対応を調整する力。新しいツールや手法を恐れず、積極的に取り入れる力。


そして、それを支えるのは、明確な理念と判断基準です。


私は、行政書士という仕事が持つ可能性を、深く信じています。困っている人の羅針盤となり、社会に価値を還元し続けるこの仕事は、本当に尊いものです。


だからこそ、その価値を未来にも届けるために、私たちは柔軟でなければならないのです。変化を楽しみながら、顧客と社会に貢献し続ける。それが、これからの士業の形だと、私は確信しています。
2026年2月18日